VISIT(にょすけさんと合作) 

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【登場人物】(2人)
・ガブリエル・M・ハインスタイン 殺人鬼・神父 
・リッジエル 新人新聞記者

【あらすじ】 上演時間(15分~20分)
38人を殺した稀代の殺人鬼「神父」が捕まった。まさに39人目を今から殺害しようとしている最中の逮捕劇はこの街を震わせた。神父の判決はもちろん死刑、神父は殺人を容認したが細かい供述は一切しておらず巷では「神父が何故人を殺したのか?」で話題は持ち切り。新米新聞記者リッジエルは、単独インタビューのアポに成功し、単身取材に向かう。そういえば、神父が死刑判決を受けた時のあの言葉はなんだったのだろう。「私はいつでも脱獄できる。条件さえ揃えば、明日にでも。」



(クエンティン中央刑務所、面会室にて。)

リッジエル:8月14日 クエンティン中央刑務所 面会室。それでは、いまから会話を録音させて頂きます。まずは取材を受けていただいたことに感謝致します「神父」。ご機嫌は如何ですか。

ハインスタイン:悪くはないね。しかし、いけ好かない。まずはきちんと名前を名乗ったらどうかね?

リッジエル:これは、失礼しました。お詫びします神父。数多くの取材依頼の中から私を選んでいただいたとうかがっていたので、てっきりご存知かと思いまして。私はリッジエルと申します。私も改めてお名前をお伺いしても?あの、記録の為に。

ハインスタイン:リッジエル。リッジエルリッジエルリッジエル。「ガブリエル・M・ハインスタイン」だ。今日は有意義な時間にしようじゃないか、リッジエルくん。

リッジエル:は、はい。よろしくお願いします。それでは、まず貴方が今回起こした事件についてお伺いします。貴方は神父という職業でありながら38名を殺害した容疑で逮捕され…その、裁判所から先日死刑を宣告されましたね。本当に間違いはないんでしょうか?

ハインスタイン:正確には、38名の殺害と、1名の監禁と傷害だ。物事は正確に伝えていただけないかね?リッジエルくん。

リッジエル:・・・・・・一体なぜそんなことを?貴方のような人が。

ハインスタイン:貴方のような人?君は私の何をみて、そう言っておるのかね?それに、それに君はあれだね。夜の経験が無いだろう?

リッジエル:・・・・・・っ。今は貴方のことを聞かせてくれませんか神父。

ハインスタイン:段階も踏めず、甘いピロートークも無しに女が股を開くとでも?なあ。リッジエルくん。下手したら君は恋人がいた事も無いのではないかね?

リッジエル:私のことをあれこれ詮索するのはやめていただけますか。質問に答えていただきたい。先に進みません。

ハインスタイン:それとも本当はリッジエルちゃんなのかな?だとすれば呼称はリジー。
可愛いくまちゃんのぬいぐるみを抱きながらマザーグースのおとぎ話を聞きながら眠っている。そういう顔をしているね?

リッジエル:・・・質問を変えましょう。答えていただけないようなので。貴方にとって人を殺すことは何を意味しているんですか。

ハインスタイン:「話を聞いてくれない」「質問が進まない」「時間だけが過ぎる」今、君の心の中はどうなっていたかね?私に向けて、何を考えていた?

リッジエル:貴方はまるで私で暇つぶしでもしているかのようですね。質問には答えていただけないのでしょうか。

ハインスタイン:最後まで聞きたまえ、リッジエルくん。今君は私に苛立ちを覚えている。違うかい?

リッジエル:(諦めて手帳を閉じます。)貴方も人の心がまだのこっているようですこし安心しました神父。私の気持ちを分かってもらえていたとは。でも苛立ちとは少し違います。まるで貴方が、私の祖父のようだと。からかって、はぐらかして、時間だけを引き延ばそうとする。

ハインスタイン:私が最初に言った言葉を忘れたのかね?有意義な時間にしよう、そう伝えたはずだ。……面白い返答をするね。実に良い。ああ、なぜ殺したか、だったかな。君は、日曜日に教会へのミサには行く信仰深い人間だったかね?リッジエルくん。

リッジエル:いえ、残念ながら私はカトリックではないので。

ハインスタイン:そうか。それは「善い事」だ。賛美歌を歌い、聖書を読み、懺悔をし、最後には生を受けたこと。そして主への感謝を言葉にし、クッキーを貰い、家路につく。その、クッキーを頬張る姿が。美しく思えた。それが。一番最初の。エマを殺した理由だよ。

リッジエル:美しいから殺したと・・・?

ハインスタイン:ああ。実に悲しかった。実に儚かった。実に愛しかった。

リッジエル:貴方は他に37名・・・殺害していますが。殺した理由はみな違うのですか。

ハインスタイン:アルバート・フィッシュ。

リッジエル:え?

ハインスタイン:ヘンリー・リー・ルーカス。ペーター・キュルテン。ジェフリー・ダーマー。アーサー・ショー・クロス。……知っているかね?

リッジエル:まさか、あなたは被害者全員の名前を・・・。

ハインスタイン:ふ、勉強不足だね。リッジエルくん。君は記者歴……一年未満だったね?ならば仕方あるまい。今挙げた名前は、過去五人以上を殺害した「シリアルキラー」の名だよ。彼らは口々に言った。「殺すことに理由などない」……と。

リッジエル:すみません、別に興味がなかったもので。・・・貴方も彼らと同じだというのですか?

ハインスタイン:「理由など関係ない」と言う話さ。例えば。君は恋人がいた、もしくは誰かに恋焦がれたことはあるかい?

リッジエル:・・・思い出したくありません。

ハインスタイン:では、口に出さなくてもいい。想像してみてくれたまえ。その人のどこが魅力的であったのか。首筋の筋肉の形?それとも暖かく囁くような落ち着きのある声?シナモンアップルパイを大きな口で頬張る姿かもしれない。そして。例えば。今日。リッジエルくん。君はなぜ、どのような理由で、私に取材をしたいと思って、ここに来たのかね?

リッジエル:貴方がどんな人なのか、興味があったからです神父。

ハインスタイン:38人を殺し、そして1人を暴行した、この私を、かね?なぜ?

リッジエル:その貴方だからですよ。世界中が貴方のことを知りたがっている。何があなたをそうさせたのか。皆あなたの話を聞きたがっているんですよ。

ハインスタイン:それはそれは光栄なことだ。しかしそれを人々はこう呼ぶ。「興味」と。「好奇心」と。違うかね?

リッジエル:おそらく、娯楽。でしょうね。

ハインスタイン:その君たちの娯楽と、私が殺した理由に大きな違いがあると思うかね?リッジエルくん。

リッジエル:君たち、なんて纏めないでいただきたいですね、神父。私は、あなたの殺人を娯楽として待ち望んでいる人達とは違います。

ハインスタイン:本当に?そうと言いきれるかね?

リッジエル:貴方と話す前は確かに、そうだったかもしれない。でも今は、私は貴方という存在がこの世にいることが恐ろしい。
(リッジエルは、恐ろしいといいつつ神父から目を逸らすことができない。)
リッジエル:貴方は、貴方が先ほど名前をあげた他の殺人犯たちとは違います。

ハインスタイン:(食い気味に。リッジエルの眼を捉えたまま)それがわかるだけ上等だ、実に「善い」よ、リッジエル。地下鉄を待つ時、ホームで並ぶ目の前の酒臭い男の背を押してみたいと思ったことは?スマホを弄りながら近づいてくるヒッピーがそのまま車に轢かれたらいいと考えた事は?SNSで、嫌いな配信者に死ねと書き込んだことは?誰がそれをとめた?理性だ。法律だ。周囲だ。そこに、摂理はない。道徳は要らない。クッキーを割って口に運ぶ必要もない。

ハインスタイン:リッジエル、違うだろう、リッジエル。君は違う。そんな道徳などと言う思考放棄に追従する安っぽい人間ではない。リッジエル、リッジエルリッジエル。君がききたいのは、大衆のためでは、ない。君が広めたいのは、私のスクープでは、ない。リッジエル、先程から口元が緩んでいるのを、君は気づいているかね?

リッジエル:神父。私はこう思うのです。貴方が人を殺すことに理由はあるのですよ、神父。私は貴方の祖父のような振る舞い。美しいと思い、エマを殺したこと。私に、「貴方の人らしい姿」と「人でない姿」をみせたのはわざとでしょう。神父。私はもうすこし貴方の言葉を聞かなければいけませんが、確信に近いものを感じているんです。貴方は・・・、


リッジエル:貴方は、あなたが感じた「愛」そのままに人を救ったのではないですか?人は貴方の精神が理解できないから、あなたを死刑にするのです。酒臭い男の背を押してみたいのが愛だとしたら、ヒッピーを車に轢かれればいいと考えるのも愛だとしたら、嫌いな配信者に死ねと描き込むことも愛だとしたら。貴方が私に取材させたのも、愛だとしたら。貴方はとても人間なのに、まったく人間ではない。


リッジエル:神父、今のあなたの表情を鏡で見せてあげたい。

ハインスタイン:くく……くっくっく……はっはっはっは!!!!!!(高らかに笑う)

リッジエル:し、神父・・・?私はなにか間違いましたか?

ハインスタイン:エマ、リンダ、マイルストン、メイ、カナート、マチルダ、トマ、ライムス、ダニー、ニック、アリス、キム、ヨウコ、クリストラ、クーペ、チャンドラ、リックソン……全員私の被害者だ。
ハインスタイン:リッジエルくん。いや、リッジエル。

リッジエル:はい。

ハインスタイン:君は「素晴らしい」よ。リッジエル、他に聞いておきたいことはあるかね。

リッジエル:貴方は、裁判の際にこういったそうですね、「自分はいつでも刑務所から脱獄できる」と。どうするつもりなのですか。

ハインスタイン:そんな事かね。簡単な話だ。「もう、私は脱獄している」よ。リッジエル。

リッジエル:え。(リッジの手は震えている。)

ハインスタイン:「もう、そこに、私はいるだろ?」

リッジエル:……っ!

ハインスタイン:さあ、もう面会時間は終わりのようだよ。看守たちの目が痛い。

リッジエル:ふふ、あなたでもそんなことを考えるのですね。私も、もっと、人間を愛せるようになるでしょうか。あなたのように。……私は人に愛されたことがないのに。

ハインスタイン:それを「証明」してみせたまえ。リッジエル。聖書には書いてあるだろう。まず、隣人を、愛せ、と。

(少しの間をあけ)


ハインスタイン:ほら、脱獄できた。もう彼は、人を切り開いてみたくて、堪らない。
(静かに、暗く、笑う声でフェードアウト)