どこかで聞いた詩

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悠々と 幽々と伸びる
己の背から 伸びる影には
遠い記憶の 何百もの蝉の幻聴が
とりついたように離れない

重ねた手も そのままずっと
ぬくもりに溺れて 溶けて
取り込まれて 逃げられない
絶叫がこだまする 怒号がつんざく街で
もうどうにか なってしまいそうだ。

遠い記憶の 何千もの鈴虫の幻聴が
遠い記憶の 何億もの蛙の幻聴が

どうでもいいことばかりだ
そんなどうでもいいことに
必死になって 笑える
もうどうにかなってしまえ

耳鳴りの雷には慣れたが
音痴な吟遊詩人には帰れと石を投げた。

聞こえているのは 己だけ
一生工事が終わらない
障害 鳴り止まない

太陽の下で 焼かれ残る影、それは
己の身より 粗末な化け物だ。

その温もりでは 温まらない
その優しさは むこうの鏡に向けて

誰一人 蝉を踏みつけてくれない
誰一人 鈴虫を握りつぶしてくれない
誰一人 蛙の うた を とめてくれない。

聞こえていないから 当然 か
自由になりたいなんて 思っていないのだから。

遊園地へ 行きたい
絶叫マシンに乗りたい
タワーオブテラーというのか?
身体がふっとび 散っていくような快感が欲しい
飛び降り自殺を体験しよう
最高だ
もう一度
最高だ
もう一回
最高だ
風に身を削られる
あと一回だけ
ああ、もう何も聞こえない
バラバラになりそうだ。

生きていたって苦しいんだ
死んだところできっと変わらない

季節はしねて羨ましい
太陽も月も毎日毎日
生まれては溶けて死んでいく
そうだ
海も呼吸しているのだから
いつか死ぬ
生きているから

心臓すらも邪魔をする
無音の世界はどこにある。
聞こえているのは、己だけ。

ワイヤレスがはびこりすぎて
自分で取り出せなくなってしまった
爪を切ってしまったせいで
コーヒーの缶さえ、開けられないのだ。

その温もりはいらない
冷たいほうが好きなんだ
それはやさしさのつもりなのか。
ごめん
電波が悪くて
君の声はロボットみたいで
途切れ途切れで
もう一回
もう一度
あと一回だけ
何を言っているのかわからない。

あのさ
うるさすぎて
イライラするんだ

鏡を合わせたら消えていく
お前のわかったような態度に
虫唾が走る
己ですら わからないのに

まるで拷問のように
耳に流し込まれる
聞こえていたのは
己だけ

この世の音が無くなれば
そうだ
最後に残るのはきっと
この、生きている音だけ
諸悪の根源だけ
死にたくなってきただろう きっと

蝉も
鈴虫も
蛙も
生きるために鳴いているのに
私には現実逃避して不平不満をまき散らす
玩具売り場で泣きわめく
首を絞めたくなるこどもの鳴き声や
精神崩壊し、痩せこけた人間が
病室で壊れたラジオのように紡ぐ
いつか全世界が涙するラブストーリーや
小気味よく馬鹿にされている
巧妙な悪口に聞こえるんだ。
殺意を覚えるのはおかしいとはだれが言ったんだ。

被害妄想?
不幸はずっと感じていると
戻れなくなってしまうだろう?
しかし定期的に穴に落ちなければ
それこそ頭がおかしくなるぞ。

理解されたら負けだ
己のことなど信じられぬから
未来に託すしかないんだよ
君の 足手まといをするしかないんだよ。

理解されたいが
それは全部本当ではないんだ
言葉にして伝えた時点でそれは
どこかで聞いたことのある詩の歌詞。

ああ、思い出した。
あの時、
何度も何度も
何度も
もう一度
あと一回
もう一回だけと
石を投げたじゃないか

たとえ勘違いであっても
この気持ちは忘れられない。

さあ、戻れるならば
どこにもどろうか。