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◆
悠々と 幽々と伸びる
己の背から 伸びる影には
遠い記憶の 何百もの蝉の幻聴が
とりついたように離れない
重ねた手も そのままずっと
ぬくもりに溺れて 溶けて
取り込まれて 逃げられない
絶叫がこだまする 怒号がつんざく街で
もうどうにか なってしまいそうだ。
◇
遠い記憶の 何千もの鈴虫の幻聴が
遠い記憶の 何億もの蛙の幻聴が
どうでもいいことばかりだ
そんなどうでもいいことに
必死になって 笑える
もうどうにかなってしまえ
◆
耳鳴りの雷には慣れたが
音痴な吟遊詩人には帰れと石を投げた。
◇
聞こえているのは 己だけ
一生工事が終わらない
障害 鳴り止まない
◆
太陽の下で 焼かれ残る影、それは
己の身より 粗末な化け物だ。
◇
その温もりでは 温まらない
その優しさは むこうの鏡に向けて
誰一人 蝉を踏みつけてくれない
誰一人 鈴虫を握りつぶしてくれない
誰一人 蛙の うた を とめてくれない。
◆
聞こえていないから 当然 か
自由になりたいなんて 思っていないのだから。
◇
遊園地へ 行きたい
絶叫マシンに乗りたい
タワーオブテラーというのか?
身体がふっとび 散っていくような快感が欲しい
飛び降り自殺を体験しよう
最高だ
もう一度
最高だ
もう一回
最高だ
風に身を削られる
あと一回だけ
ああ、もう何も聞こえない
バラバラになりそうだ。
◆
生きていたって苦しいんだ
死んだところできっと変わらない
◇
季節はしねて羨ましい
太陽も月も毎日毎日
生まれては溶けて死んでいく
そうだ
海も呼吸しているのだから
いつか死ぬ
生きているから
◆
心臓すらも邪魔をする
無音の世界はどこにある。
聞こえているのは、己だけ。
◇
ワイヤレスがはびこりすぎて
自分で取り出せなくなってしまった
爪を切ってしまったせいで
コーヒーの缶さえ、開けられないのだ。
◆
その温もりはいらない
冷たいほうが好きなんだ
それはやさしさのつもりなのか。
ごめん
電波が悪くて
君の声はロボットみたいで
途切れ途切れで
もう一回
もう一度
あと一回だけ
何を言っているのかわからない。
◇
あのさ
うるさすぎて
イライラするんだ
◆
鏡を合わせたら消えていく
お前のわかったような態度に
虫唾が走る
己ですら わからないのに
◇
まるで拷問のように
耳に流し込まれる
聞こえていたのは
己だけ
◆
この世の音が無くなれば
そうだ
最後に残るのはきっと
この、生きている音だけ
諸悪の根源だけ
死にたくなってきただろう きっと
◇
蝉も
鈴虫も
蛙も
生きるために鳴いているのに
私には現実逃避して不平不満をまき散らす
玩具売り場で泣きわめく
首を絞めたくなるこどもの鳴き声や
精神崩壊し、痩せこけた人間が
病室で壊れたラジオのように紡ぐ
いつか全世界が涙するラブストーリーや
小気味よく馬鹿にされている
巧妙な悪口に聞こえるんだ。
殺意を覚えるのはおかしいとはだれが言ったんだ。
◆
被害妄想?
不幸はずっと感じていると
戻れなくなってしまうだろう?
しかし定期的に穴に落ちなければ
それこそ頭がおかしくなるぞ。
◇
理解されたら負けだ
己のことなど信じられぬから
未来に託すしかないんだよ
君の 足手まといをするしかないんだよ。
理解されたいが
それは全部本当ではないんだ
言葉にして伝えた時点でそれは
どこかで聞いたことのある詩の歌詞。
◆
ああ、思い出した。
あの時、
何度も何度も
何度も
もう一度
あと一回
もう一回だけと
石を投げたじゃないか
◇
たとえ勘違いであっても
この気持ちは忘れられない。
さあ、戻れるならば
どこにもどろうか。